歌声を編む日々

推しの歌声が導く、音楽をめぐる旅

大貫妙子 / SUNSHOWER ── 透明感が記憶を包む音像レビュー

本ページにはプロモーションが含まれています。

❄️【冬音巡り2025–2026 #10】

冬の名盤レビュー|大貫妙子『SUNSHOWER』と“凍らない孤独”

吐く息が白くほどける冬の朝、
世界が薄いガラス越しに見えるような静けさがありますよね。
その透明な空気の中で、そっと立ち上がってくるのは——音の“輪郭”。

触れれば消えてしまいそうなのに、
胸の奥では確かな温度を宿して響く歌声。
冬の街を歩くときにふと感じる、
あの“乾いた静けさ”とどこか重なります。

大貫妙子『SUNSHOWER』は、
冬の光と凍る呼吸が静かに同居する一枚です。
ここにあるのは、
「孤独を凍らせずに抱きしめるための透明な音」であり、
冷たい空気の中でそっと体温を取り戻すような響きなんです。


大貫妙子『SUNSHOWER』ジャケット画像

この一枚が、記憶の扉を開ける鍵になるかもしれません。
※画像クリックで商品ページへ移動します
▶ この音に触れる(Rakuten)

▶ 目次を開く / 閉じる


■ 基本情報

  • アルバム名: SUNSHOWER
  • アーティスト: 大貫妙子
  • リリース年: 1977
  • ジャンル: シティ・ポップ/ジャズ・フュージョン
  • サブスク配信: あり

前作『Grey Skies』のクラシカルな湿度から一転し、
本作ではタイトなリズムと乾いた都会の空気がそっと主役に据えられています。
冬の光に照らされたガラス面が一瞬だけきらりと輪郭を見せるように、
音の形がふっと鮮明になる瞬間がある作品です。

“自分の好きな音”へと静かに舵を切った大貫妙子の、
揺るがない決意がやわらかく透けて見える一枚でもあります。


■ 冬の情景 × 音像分析

——“凍らない孤独”と、“器楽的ボーカル”

再生した瞬間、まず触れるのは音の余白です。
冬の朝の静けさが部屋に満ちていくように、
音が鳴っていない部分にまで冷たい空気がそっと入り込み、
その中でひとつひとつの音が、微かな光を帯びて浮かび上がっていく。

  • 白くほどける吐息
  • ガラス越しの距離
  • 冬の光が照らす輪郭
  • 凍る空気の中で揺れる体温

こうした冬の象徴が、大貫妙子の声と自然に重なり、
“冬の内省”そのものを音にしたような質感を生み出している。
ノンビブラートでまっすぐに伸びる声は、
感情を押しつけることなく、
ただ静かに、透明な温度だけを残していく。

そしてこのアルバムには、
「不在の存在(Ghost)」がそっと漂っています。
誰かの影ではなく、
冬の光に照らされたときのように、
自分自身の輪郭が静かに浮かび上がる気配があるのです。


■ 制作背景:自立から、透明な呼吸へ

——リズムへの挑戦が生んだ、冬の静けさ

シュガー・ベイブ解散後、
大貫妙子は「自分の好きな音」だけを静かに信じて歩き始めます。
その決意の延長線上で生まれたのが『SUNSHOWER』でした。

坂本龍一が全曲のアレンジを担い、
細野晴臣、松木恒秀、そしてニューヨークから来日していた
ドラマーのクリス・パーカーらが集結する。
当時の日本のポップスでは異例とも言える、
研ぎ澄まされたアンサンブルがここに息づいています。

  • クリス・パーカーのタイトで乾いたビート
  • ノンビブラートで“器楽化”されたボーカル
  • 過剰な装飾を排した、鮮明なミックス

音数は決して多くないのに、
その少なさの中で音がふっと揺れたり、呼吸したりする。
冬の静けさの中で風が頬を撫でるような、
かすかな“生命の揺らぎ”が確かにあるのです。


曲ごとの印象

——静寂の中で滲む感情たち

01. Summer Connection

最初の一音が鳴った瞬間、
冬の朝の光にそっと触れたような、乾いた16ビートが広がります。
坂本龍一のクラビネットとクリス・パーカーのドラムが刻むリズムは軽やかだけれど、
大貫妙子の声はどこか距離を保っていて、
まるで季節を少し離れた場所から眺めているようなんです。

冬の街を歩くとき、
自分だけが少し違う速度で生きているように感じる瞬間がありますよね。
この曲は、その静かな孤独をそっと思い出させてくれます。


02. くすりをたくさん

可愛らしい声で歌われるのに、
その奥には小さな棘のような違和感が潜んでいます。
白い息の向こう側で、
社会の“どこかおかしいところ”に気づいてしまった人のまなざしが揺れている。

怒りをぶつけるのではなく、
あえて柔らかいポップスに包むことで、
その異常さが静かに浮かび上がるんです。
坂本の鍵盤が、冬の空気の中でふわりと揺れる眩暈のように響きます。


03. 何もいらない

この曲は、冬の曇天のように、
余計なものをすべて削ぎ落とした静けさをまとっています。

ノンビブラートのロングトーンは、
“もうこれ以上飾れない”という心の限界点に触れていて、
聴いているこちらも思わず息をひそめてしまうほど。
感情を爆発させないからこそ、
その静かな絶望が胸に深く染み込んでくるんです。


04. 都会

跳ねるリズムと乾いたギターが、
冬の朝のビル街を思わせます。
人の流れの中で、
自分だけが少し違う速度で歩いているような、
あの独特の孤独感がふっとよみがえる。

ファンクの明るさを借りながら、
大貫妙子は街の虚無を淡々と告げます。
そのアイロニーの奥に、
凍らない体温がそっと灯っているのが、この曲の優しさです。


05. からっぽの椅子

ジャジーな和音が、
冬の部屋に差し込む午後の光のように静かに沈んでいきます。

“誰もいない椅子”という不在の象徴が、
冷たい空気の中でゆっくりと輪郭を持ち始める。
孤独を否定せず、
ただそこにあるものとして受け入れる優しさが、
この曲にはそっと宿っています。


06. Law Of Nature

冬の森の奥で、
雪の下に眠る土の匂いを思わせるような曲です。

自然回帰を“癒し”として描くのではなく、
文明への疑問として静かに差し出す視点が、
とても大貫妙子らしい。
垢をそぎ落とした素顔を見たいという願いが、
冷たい空気の中でそっと震えています。


07. 誰のために

冬の風に逆らって歩くような歌です。

地位や名誉に頼らず、
「自分を押し通す」ことの難しさ。
完璧なアンサンブルの中で、
大貫妙子の声だけがわずかに揺れていて、
その揺らぎが“人間の温度”として優しく胸に触れます。


08. Silent Screamer

冬の夜の道路を、
誰もいないまま車だけが走り抜けていくような疾走感。

エネルギーは満ちているのに、
叫びは外へ向かわず、内側へ沈んでいく。
その“発散しない衝動”が、
アルバム全体の甘さを拒む静かな芯になっています。


09. Sargasso Sea

2分46秒の、静かな漂流。

“魔の海”サルガッソ海をモチーフにしたこの曲は、
冬の海辺に立ったときの、
どこにも行けないような感覚にそっと寄り添ってくれます。
坂本龍一のミニマリズムが、
次の終末歌へ向かう静かな橋を架けています。


10. 振子の山羊(振子の時計)

冬の終わり、
雪解けの水が静かに流れ始める瞬間のような曲です。

人間の終末と輪廻をテーマにしながら、
そこに絶望ではなく、
“次の季節へ向かうための静かな栄養”がある。
個人の悩みから始まったアルバムが、
ここで宇宙的な循環へと静かに収束していきます。


技術 × 冬の空気

——透明なミックスと、“器楽的日本語”の再発明

『SUNSHOWER』の“冬らしさ”は、
ただ静かであることだけではありません。
音の輪郭そのものに宿るわずかな温度差が、
冬の光とそっと響き合っているのです。

  • 日本語の語感をリズムへと変換する繊細な譜割り
  • 倍音がふわりと広がる、曇りのないミックス
  • 音と音のあいだに、呼吸の余白を残す配置
  • 近くにいるようで、少し離れているような録音の距離感

どれも主張しすぎず、
けれど確かに“冬の透明さ”を支えている技術たち。

冷たい空気の中で白くほどける吐息が、
そのままメロディになって漂っていくような——
そんな“冬の呼吸”が、このアルバムには静かに息づいています。


総評

——孤独を抱えたまま歩くための、静かな光

『SUNSHOWER』は、聴く人それぞれの“冬の記憶”にそっと触れてくるアルバムです。

触れられそうで触れられない距離。
白い息の向こう側にある、まだ言葉にならない感情。
冬の街灯がふいに胸の奥を照らす、あの静かな瞬間。

大貫妙子が辿り着いた
“凛とした孤独”と“透明な呼吸”は、
決して冷たさではなく、
自分を守るための静かな体温として響きます。

冬の朝の光のように、
そっと心に染み込んでいく一枚。
聴き終えたあと、
いつもの冬の街が少しだけ違う透明度で見える——
そんな優しい変化をもたらしてくれる作品です。


Legacy & Afterlife

——静かに息づき続ける、“SUNSHOWER”のその後の物語

『SUNSHOWER』は、発売から長い年月を重ねる中で、
その輪郭を静かに変え続けてきたアルバムです。

1977年当時は、
「早すぎた名盤」として、
時代の喧騒の中にそっと埋もれていきました。
華やかな歌謡曲が主流だった時代に、
乾いた都会の空気と内省を抱えたこの作品は、
少しだけ孤立していたのかもしれません。

けれど、時間はゆっくりとこのアルバムの味方をしていきます。

アナログ再発、リマスター、
そして2010年代以降の海外でのシティ・ポップ再評価。
世界中のリスナーが、
この透明な孤独に静かに耳を傾け始めました。

当時は“終わり”に見えたものが、
今ではむしろ“始まり”に見える。
そんな時間の反転が、この作品には確かにあります。

大貫妙子の歌声は、
時代を追いかけることなく、
ただ自分の好きな音を信じて紡がれたものでした。
だからこそ、
時代が変わったとき、
その誠実さがまっすぐに届くようになったのだと思います。

筆者である私自身も、
この作品との距離が静かに変わり続けています。
かつては“都会の孤独”を描いたアルバムとして聴いていたものが、
今では“自分を守るための静かな呼吸”として響いてくる。

音楽が持つ“時間の魔法”を、
改めて感じさせてくれる一枚です。

そして今の世代にとって『SUNSHOWER』は、
SNSの喧騒や情報の渦の中で、
ふっと立ち止まるための小さな避難所のように機能している。
冬の朝の光のように、
静かで、透明で、そっと寄り添う存在として。

このアルバムはこれからも、
大きな声を上げることなく、
静かに、確かに息づき続けていくのでしょう。


🌍 For International Readers

🌿 English Summary(Final Polished Version)

Taeko Onuki’s SUNSHOWER (1977) reveals its quiet brilliance slowly, like winter light spreading across a cold morning. Created after the breakup of Sugar Babe, the album marks Onuki’s first true step toward artistic independence. With Ryuichi Sakamoto arranging every track and musicians such as Haruomi Hosono, Chris Parker, and Tsunehide Matsuki contributing, the record finds a delicate balance between technical precision and emotional restraint.

The sound is defined by clarity: dry rhythms, uncluttered arrangements, and Onuki’s non‑vibrato, almost instrumental voice. Each song feels suspended in cold air, where silence becomes part of the composition. Tracks like “Summer Connection” and “都会 (City)” portray urban isolation with a lightness that never turns sentimental, while “何もいらない” and “からっぽの椅子” explore emptiness with a gentle, human warmth. The second half shifts toward broader themes—nature, ethics, escape, and cosmic cycles—culminating in “振子の山羊”, a quiet meditation on endings and renewal.

Although the album struggled commercially upon release, time has revealed its depth. Reissues, remasters, and the global rediscovery of city pop have brought SUNSHOWER to new listeners, many of whom find in it a calm refuge from modern noise. What once felt distant or “too early” now reads as timeless. For many, including the reviewer, the album’s meaning has softened and deepened over the years: from a portrait of urban loneliness to a source of quiet strength.

SUNSHOWER continues to breathe gently across generations—an album that never demands attention, yet stays with you like a faint, enduring winter light.


次回予告

来週は、Sigur Rós『( )』をめぐる冬の旅へ。
言葉なき祈りが、白い世界の奥へと静かに溶けていきます。


関連記事

冬の光と静けさをめぐる、ほかのレビューたち。


作品を聴く


※動画は「大貫妙子 - SUNSHOWER」YouTube公式プレイリストより引用

冬の光の中でそっと響く音を、レビューと併せてゆっくり味わっていただければ嬉しいです。

🎧 Spotifyで試聴

※公式Spotifyより引用

さらに深く楽しむために

もしこのレビューが心に残ったら、そっとシェアしていただけると嬉しいです。

🐦 X(旧Twitter) 📘 Facebook 💬 LINE 🔖 はてなブックマーク

気になった方は、こちらから作品を探してみてください。

▶ 記事情報を開く

記事情報

  • タイトル:大貫妙子『SUNSHOWER』レビュー|冬の光と“凍らない孤独”
  • 公開日:2026/02/06
  • 著者:我楽(音楽レビューブログ運営)
  • ブログ名:歌声を編む日々
  • カテゴリ:アルバム/シティ・ポップ/冬音巡り
  • ジャンル:シティ・ポップ/ジャズ・フュージョン/冬の音像
  • アーティスト:大貫妙子
  • リリース日:1977年
  • レーベル:RCA / RVC
  • 演奏メンバー:坂本龍一、細野晴臣、松木恒秀、クリス・パーカー ほか
  • 収録曲:Summer Connection/くすりをたくさん/何もいらない/都会/からっぽの椅子/Law Of Nature/誰のために/Silent Screamer/Sargasso Sea/振子の山羊
  • テーマ:冬の透明さ・凍らない孤独・器楽的ボーカル・乾いた都会の光
  • 評価(★):4.9 / 5.0