【冬音巡り2025–2026 #05】冬の名盤レビュー|Norah Jones『Come Away With Me』と“コーヒーの湯気とピアノの吐息”
新しい年の静けさの中で、この一枚がそっと寄り添う時間になりますように。
ノラ・ジョーンズの『Come Away With Me』は、
ジャズという枠をそっと越えて、21世紀の音楽史に静かに刻まれた一枚です。
それは大きな話題をさらった作品というより、
忙しない日々の中でふと立ち止まりたくなるような、
“心の避難所”のような存在でもあります。
80年代の熱狂、90年代の混沌、そしてデジタル化の波を見つめてきた耳にとって、
2002年に現れたこの“静けさの衝撃”は、
音楽が本来持つ癒やしの力を思い出させてくれる出来事でした。
冬の空気が澄み、街の灯りがやさしく滲む季節。
そんな時期に聴くと、このアルバムはいつもより少しだけ近くに寄り添ってくれる気がします。
この一枚が、あなたの冬の記憶をやさしく温めてくれるかもしれません。
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■ 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| アルバム名 | Come Away With Me |
| アーティスト | Norah Jones |
| リリース年 | 2002年 |
| ジャンル | ジャズ/フォーク/ポップ/カントリー |
| サブスク配信 | あり(Spotify / Apple Music など) |
派手なサウンドが主流だった2000年代初頭に、
ブルーノートから静かに登場した22歳の女性。
ただピアノを弾き、囁くように歌うその姿は、
当時の音楽シーンにそっと新しい風を吹き込んでいました。
■ トラックリスト
| 曲順 | タイトル | 備考 |
|---|---|---|
| 1 | Don't Know Why | 1stシングル/グラミー賞3部門受賞 |
| 2 | Seven Years | |
| 3 | Cold Cold Heart | ハンク・ウィリアムズのカバー |
| 4 | Feelin' the Same Way | 2ndシングル |
| 5 | Come Away with Me | 3rdシングル/タイトル曲 |
| 6 | Shoot the Moon | |
| 7 | Turn Me On | 4thシングル/JDルウドゥミルクのカバー |
| 8 | Lonestar | |
| 9 | I've Got to See You Again | |
| 10 | Painter Song | |
| 11 | One Flight Down | |
| 12 | Nightingale | |
| 13 | The Long Day Is Over | |
| 14 | The Nearness of You | ホーギー・カーマイケルのカバー |
20周年デラックス盤では、当時の息づかいがそのまま閉じ込められた未発表音源が多数収録されています。気になる方のために、全曲リストを折り畳みでまとめました。
▶ 『Come Away With Me』20周年デラックス盤(全曲リストを開く)
Disc 1:オリジナル・アルバム(最新リマスター)
- Don't Know Why
- Seven Years
- Cold Cold Heart
- Feelin' the Same Way
- Come Away with Me
- Shoot the Moon
- Turn Me On
- Lonestar
- I've Got to See You Again
- Painter Song
- One Flight Down
- Nightingale
- The Long Day Is Over
- The Nearness of You
Disc 2:デモ音源 & “First Sessions”
- Spring Can Really Hang You Up the Most(Demo)
- Walkin' My Baby Back Home(Demo)
- World of Trouble(Demo)
- Something Is Calling You(Demo)
- When Sunny Gets Blue(Demo)
- Turn Me On(Demo)
- Lonestar(Demo)
- I've Got to See You Again(Demo)
- Painter Song(Demo)
- One Flight Down(Demo)
- Nightingale(Demo)
- Seven Years(First Sessions)
- Feelin' the Same Way(First Sessions)
- What Am I to You?(First Sessions)
- Turn Me On(First Sessions)
- Don't Know Why(First Sessions)
- Come Away with Me(First Sessions)
Disc 3:Allaire Sessions(未発表セッション)
- I'll Be Your Baby Tonight
- I've Got to See You Again(Alternate)
- What Would I Do?(未発表)
- Come Away with Me(Alternate)
- Picture in a Frame
- Nightingale(Alternate)
- One Flight Down(Alternate)
- Seven Years(Alternate)
- Feelin' the Same Way(Alternate)
- The Long Day Is Over(Alternate)
- Something Is Calling You(Alternate)
■ 参加ミュージシャン(Personnel)
| 名前 | 担当 |
|---|---|
| Norah Jones | Vocals, Piano |
| Lee Alexander | Bass |
| Jesse Harris | Acoustic & Electric Guitar(Main Songwriter) |
| Dan Rieser | Drums |
| Arif Mardin | Producer(アレーサ・フランクリン等を手掛けた巨匠) |
| Bill Frisell | Electric Guitar("Lonestar", "The Long Day Is Over") |
| Kevin Breit | Acoustic & National Guitar("Shoot the Moon" ほか) |
そして20周年デラックス盤では、当時の未発表音源や“幻のセッション”が新たに公開され、デビュー前後のノラの姿がより鮮明に浮かび上がります。追加クレジットは以下の通りです。
■ 20周年デラックス盤 追加クレジット
(20th Anniversary Deluxe Edition / 2022)
| 役割 | 名前 | 備考 |
|---|---|---|
| 監修 | Norah Jones | 本人が全体を監修 |
| 監修 | Eli Wolf | Blue Note A&R。デビュー時からノラを担当 |
| リマスター | Ted Jensen | オリジナル盤も手がけた名匠 |
| 追加Producer | Craig Street | “Allaire Sessions” を担当 |
| Guitar | Adam Levy | 初期デモ音源に参加 |
| Bass / Guitar | Tony Scherr | デモ/セッション参加 |
| Drums | Brian Blade | Allaire Sessions 参加 |
20周年盤には、契約前のデモ音源や “幻のセッション” と呼ばれる Allaire Sessions が多数収録され、デビュー前後のノラの息づかいをより深く感じられる内容になっています。
■ 冬に似合う音の質感──“引き算の美学”が生む温度
このアルバムの魅力は、なんといっても “引き算の美しさ” にあります。
余計な装飾をそぎ落とし、ノラの声と楽器の温度をそのまま届けるような音作り。
そのシンプルさが、冬の静けさとやさしく溶け合っていきます。
- ピアノの柔らかなタッチ
- ブラシで描くようなドラム
- 呼吸を邪魔しないベース
- そして、耳元でそっと囁くような歌声
どれもが、冬の朝の光や、温かい飲み物の湯気を思わせるような、
ゆっくりとした時間を運んでくれるんです。
■ トラックごとの“冬の情景”(全曲レビュー)
| トラック | タイトル | コメント |
|---|---|---|
| M1 | Don’t Know Why | 雪の舞う朝の静けさを思わせるピアノ。迷いを包み込むような歌声が、冬の光にそっと溶けていきます。 |
| M2 | Seven Years | ノスタルジックなギターが、幼い記憶と冬の午後の柔らかさを静かに呼び起こします。 |
| M3 | Cold Cold Heart | “冷たさ”と“切なさ”が交差する一曲。スライドギターの余韻が、凍える風のように胸をかすめます。 |
| M4 | Feelin’ the Same Way | 冬の散歩道を歩くような軽やかさ。淡い陽だまりの中で気持ちがふっと軽くなる瞬間を描くようです。 |
| M5 | Come Away with Me | 月明かりの雪道を並んで歩くような、静かな誘いの歌。夜の深さと温もりがやさしく混ざり合います。 |
| M6 | Shoot the Moon | 届かない想いを抱えた冬の夜。遠くの星を見上げるような切なさが、そっと胸に残ります。 |
| M7 | Turn Me On | 冬の部屋に灯る小さなランプのような温度。秘めた情熱が静かに燃える、暖炉の火のような一曲。 |
| M8 | Lonestar | 冬の広い空にひとつだけ光る星。その孤独と美しさを映し出すようなスライドギターが印象的です。 |
| M9 | I’ve Got to See You Again | 冬の夜道を急ぐような焦燥感。ヴァイオリンの揺らぎが、胸の奥の熱をそっと揺らします。 |
| M10 | Painter Song | 冬のアトリエに差し込む淡い光。アコーディオンの色彩が、静かな午後の情景を描き出します。 |
| M11 | One Flight Down | 冬の都会のビルの隙間を吹き抜ける風のような、少し冷たい孤独感。ピアノがその余白をやさしく埋めます。 |
| M12 | Nightingale | 冬空を飛ぶ鳥のように、自由を求める気持ちがふわりと広がる。希望の光がそっと差し込む一曲。 |
| M13 | The Long Day Is Over | 長い冬の日の終わりに、すべてをそっと手放すような安らぎ。温かい毛布に包まれるような優しさがあります。 |
| M14 | The Nearness of You | 冬の夜、静かに寄り添う距離感。ピアノと歌声だけの親密さが、心の奥に静かに灯りをともします。 |
録音の空気感や、楽器の配置、歌声の近さ── そのすべてが“静けさを美しく録る”ために丁寧に整えられていて、 冬の情緒と深く響き合っています。
■ 歌詞が描く“逃避”と“寄り添い”
このアルバムに流れているのは、愛の渇望や孤独、そして静かな逃避。
現実の重さからそっと離れ、
音楽という温かな場所へ連れ出してくれるような言葉が並んでいます。
夜の闇に紛れて、どこかへ行こう──
そんな優しい誘いが、
当時の不安定な社会の中で多くの人の心を支えたのも自然なことのように思えます。
そして今を生きる私たちにも、その温度は変わらず届きます。
静かに寄り添いながら、心の奥にある小さな痛みや願いをそっと照らしてくれるんです。
■ 文化背景と現在地──“45分間の没入体験”の価値
デジタル革命前夜に生まれたこの作品は、
「良い音楽は、静かに、でも確かに届く」という希望を示してくれました。
2025年の今、ノラは『Visions』などで新しい表現を続けていますが、
その原点である本作は、
“21世紀のスタンダード・ジャズ”として揺るぎない存在になっています。
SNSで短い刺激が求められる時代だからこそ、
45分間、ただ音に身を委ねるという体験は、
以前よりもずっと価値を増しているように感じます。
■ 冬に聴く理由──“何もしない贅沢”を思い出させてくれる
このアルバムを聴いていると、
“何もしない時間”がこんなにも豊かだったのかと気づかされます。
音圧やスピードを追い求めた時代を経て、
一音の減衰や、ふとした息継ぎにこそ、
音楽の真実が宿っていることをそっと教えてくれるんです。
冬の静けさの中で聴くと、その余白がいっそう深く響きます。
まるで、心の中にゆっくりと温かい灯りがともるように。
■ この作品が寄り添う“冬の記憶”
『Come Away With Me』が奏でるのは、
静かな再生、小さな希望、そして 温もりのある孤独。
誰かと過ごす冬にも、ひとりで過ごす冬にも、
そっと寄り添ってくれるアルバムです。
あなたの冬の記憶には、どんな景色が浮かぶでしょう。
そんなことを思いながら、ゆっくりと聴いてみてください。
きっと、その時のあなたに必要な温度で寄り添ってくれるはずです。
■ 来週の「冬音巡り」は…
次週は、Radiohead『A Moon Shaped Pool』 を取り上げます。
“氷の湖に映る心の残像”をテーマに、
より深い静寂と透明感を湛えた冬の名盤へと歩みを進めていきます。
冷たい空気の中にふと漂う、あの淡い感情。
そんな“冬の奥行き”に触れるような一枚を、そっと紐解いていきますね。
季節の深まりとともに、“冬音巡り”は次の記憶へと静かに続いていきます。
どうぞ、また来週もゆっくりとお付き合いください。
作品を聴く(音源)
※動画は「Norah Jones - Come Away With Me」公式YouTubeより引用
音の表情や息づかいを感じながら、レビューと併せて楽しんでいただければ嬉しいです。
レビューの余韻とともに
気になった方のために、作品を探せるリンクもまとめています。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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